福岡高等裁判所 昭和25年(ネ)460号 判決
控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人両名が被控訴人の子であることを認知せよ。被控訴人は控訴人両名に対し被控訴人に訴状が送達された日の翌日以降昭和二十五年八月末日迄の日数一ケ月につき金三千円の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は孰れも原判決事実摘示のとおりであるからここに引用する。
<立証省略>
三、理 由
第一、乙第一号証並に原審における控訴人両名の法定代理人岩間タマキ尋問の結果を綜合すれば右タマキは訴外岩間健太郎と昭和四年六月十七日所定の戸籍上の届出により婚姻をし、昭和十九年十一月三十日夫健太郎死亡に因りその婚姻が解消するに至りたること、右婚姻中右両名の間に控訴人岩間正人が昭和十六年八月七日同岩間秀真が同十九年八月三十日出生したことを認めることができる。しかして民法第七百七十二条によれば妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されこの推定は同法第七百七十四条により夫の嫡出子否認の訴によつてのみ覆し得るに過ぎない。しかも父と推定される者から否認の訴によつて覆されない限り真実の父も子を認知することができないし子も亦真実の父に対して認知を求めることもできない。しかも夫が子の出生を知つた時から一年以内に否認の訴を提起せず若くは右一年以内に死亡した場合においてその子のために相続権を侵害された者もしくは夫の三親等内の血族が夫の死亡の日より一年以内に否認の訴を提起しなかつたときは同法第七百七十七条人事訴訟手続法第二十九条第二項により最早反証を挙げてこれを覆すことはできないものといわねばならない。しからば控訴人等は母の夫である前記訴外岩間健太郎の嫡出子と推定されしかも前記の如き否認の訴が前記法定期間内に提起されたことの主張立証のない本件においては控訴人等が右訴外健太郎の嫡出子であること確定し、もはや何人も絶対にこれを争うことを得ないものといわねばならない。(控訴代理人は、戸籍上他家に嫡出子と登載されて居るものに対して戸籍訂正を為さずして直ちに認知請求を為すことを得るものとする大審院の判例を引用し、以て本件においても認知の訴訟を提起し得るものなりと論じて居るが、右判例を俟つ迄もなく、単に他家に嫡出子として戸籍に登載されて居るに過ぎないものの如きはいわゆる嫡出子の推定を受ける子に非ざるを以つて、真実の父に対し認知を求め得べきこと論を俟たないところであり、右判例は本件の場合に該当しない。)
第二、但し嫡出子推定の原則をその儘厳格につらぬくときは例えば妻が夫と別居して数年になるにまだ法律上の離婚手続を了しない儘他の男と同棲して子を分娩したる場合(控訴人等引用の大審院判例の場合)とか、永らく夫が出征中若くは海外において別居中とかその他離婚同様に別居生活をし永く夫婦関係を断絶している場合の如く外部関係から何人がこれをみてもその夫婦間では絶対に夫の子を懐胎し得られない状態であることまことに明かな場合に迄もその間に生れた子を右の嫡出子の推定を受けるものと解するに至りては、甚しく実情に副わない場合を生じるので、かかる場合は例外として父を定める訴に準じてこれを救済することのできるものと解するのが相当である。しかし本件においては前記原審における控訴法定代理人の供述により、同人が夫健太郎と婚姻生活を継続しその間終始同棲して同人と情交関係を継続中に控訴人等が出生したことが認められるのであるから、たとえ控訴人等の法定代理人がその頃被控訴人とも情交関係をしたからといつて左様な場合に迄も拡張して父を定むる訴の提起を許容するときは民法第七百七十二条の嫡出子推定の規定は空文に等しく到底是認すべき限りではない。従つて本訴が控訴人等弁論の全趣旨から認知を求むる趣旨でなく父を定むる訴に該当するものとするも右の如き場合には父を定むる訴は認められないものと解するのが相当であるから控訴人の主張は採用できない。蓋し嫡出推定の規定は控訴人主張の如く家族制度維持のためのみの規定ではないのみならず自己の子であるかどうかは子の母を除いては父と推定される夫の最も良く知れるところであるから法はその夫が一定の期間内に否認の訴を提起しない場合においては自己の子に相違なきものと認めこれを承認したものと推測して身分秩序安定の立場から父子関係を可及的速かに確定したものにして寧ろ子の保護の趣旨に出たものであり、そうすることが客観的真実にも合致するものと認めたに外ならぬのであるから斯く解することを以つて新憲法下個人の尊厳や両性の本質的平等に反するものということはできない。
第三、次に控訴人等の扶養料の請求について判断すると控訴人等は被控訴人に認知請求権を有しないこと前記のとおりであるから認知を前提とする扶養料の請求は失当であるばかりでなく、仮に認知と離れて認知前においても被控訴人が控訴人等の実父であることが明かである場合においては控訴人等は被控訴人に扶養料の請求を為し得べきものと解するも控訴人等は前記認定の如く訴外人の嫡出子で被控訴人の実子ではないから本訴が認知を前提としないで単に実父に対する扶養料の請求を為す場合としても亦これを許容すべき限りではない。
しからば控訴人等の本訴請求は失当であるから結局これと同趣旨に出で控訴人等の本訴請求を排斥した原判決は相当であるから、本件控訴はいづれも理由がないからこれを棄却すべきものと認め民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十三条、第九十五条を適用し主文のとおり判決をする。
(裁判官 仲地唯旺 二階信一 秦亘)